本研究の課題は、帝政期ロシアが辺境・民族地域にたいしてどのような眼差しをもち、どう統合していこうとしたのかを、辺境・教育管区への教育政策を分析することで具体的に明らかにすることである。初年度となる平成21年度は、22年度以降の本格的研究とその成果の発表のための基礎的な資料収集や調査を行った。 国内で基礎的な文献の収集を行ったほか、平成22年1月4日から1月12日まで、フィンランドの国立図書館スラブ図書室で基礎資料の閲覧と収集を行った。さらに、2月10日から19日まで、ペテルブルグに別件で調査に赴いたさいも、同時に本研究の資料収集も行った。両調査旅行では、帝政期ロシアの教育政策全体にかかわる文献とともに、重点的にコーカサス教育管区の教育政策にかかわる文献の収集を行った。そのさい、もっとも重要な資料として、コーカサス教育管区にかかわる行政命令集を入手した。本調査で入手された資料を分析し、22年度7月にストックホルムで開催されるスラブ国際学会大会で研究成果の報告を行う予定である。 平成21年度は、ロシア帝国教育政策の基礎的な研究を進め、さらにコーカサス教育管区に関する資料調査を行ったことで、次年度の研究発表につながる基礎固めができた。 同時に、ソ連体制が構築されたさいの学知の役割について、雑誌『地域研究』で特集号を組織した。そのさい、全体構想を説明するリード文を発表した。とくに当特集では、多民族・多地域を包摂するソ連領域において、学知が当領域のあり方をどのように認識し、統合しようとしたかという点に注目した。したがって、当研究成果もまた、帝政期ロシアの民族地域に対する教育や学知のあり方が、のちのソ連体制の構築の時期にどのように展開したのかということを明らかにする可能性をもった点において、当研究の議論の広がりを示す意義をもった。
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