本研究の課題は、帝政期ロシアが辺境・民族地域にたいしてどのような眼差しをもち、どう統合していこうとしたのかを、辺境・教育管区への教育政策を分析することで具体的に明らかにすることである。二年目となる平成22年度は、21年度に取り組んだコーカサス教育管区に関する研究の成果を国際学会で報告し、さらに、23年度に公表する予定の西部諸県の教育政策に関する基礎的な調査を行った。 まず、昨年度から資料の収集と分析を続けてきたコーカサス教育管区に関する研究成果を、世界最大のスラブ地域研究の国際学会である中・東欧学会の世界大会(ストックホルム)で報告した。当報告では、「大改革」以降、コーカサス教育管区の教育制度の整備が試みられたが、内地の教育政策とは逆に、当該教育管区の教育政策は、諸民族を分離し、階層化する方向性をもっていたことを論じた。この研究によって、内地の教育政策と辺境の教育政策の差異が浮き彫りにされたと考えられる。続いて、当成果を論文として公表することが課題となる。 また22年度は、23年度に取り組む予定の西部諸県の教育政策について、基礎的な調査を進めた。当初の研究実施計画では、西部諸県については実証的な研究を行わない予定であったが、調査の進展に従い、当該地域の重要性が明確となった。そのため、先行研究からモデルを構築するだけではなく、自ら実証的な研究も同時に進める必要性を認識するに至った。また、2010年12月10日に、ハーバード大学デイビス・センターで、歴史学セミナー"Imperial Perspectives on Social Transformation : Re-Examining Sosloviia in the Wake of the Great Reforms"を組織する機会に恵まれたが、その際にも、当該テーマにおける西部諸県の重要性を強く感じるに至った。 そのほか、内地の教育政策や教育制度の転換に関する博士論文や、18世紀の都市社会の自律性についての論考を発表した。これらによって、帝政期ロシアの社会の諸相が明らかにされた。
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