研究課題
知の情報が狭い分野に秘匿される状態、すなわち専門家たちのコミュニティ内部にのみ発信されることを「インパブリッシュ」とよび、これが特定のコミュニティを超え、外部へと発信されることを「アウトパブリッシュ」とよぶ。コミュニティ外部への知の普及はコミュニティそのものを社会的に強化し、その原動力となる。わたしは、このような知的エリートのコミュニティ=社会間のオープン・コミュニケーション(学環)が誕生したのは、15世紀後業から16世紀にかけてのヨーロッパの出版界においてであったのではないかと考え、16世紀のアブラハム・オルテリウスによる『世界の舞台』(Theatrum Orbis Terrarum)の出版業に着目した。本年度は、その28版をこえる各版の収集を順次おこないながら分析することを中心に研究をすすめた。具体的には、ドイツ・ゲッティンゲン大学、ハイデルベルク大学、シュトゥットガルト大学において各版を現地調査し、スキャニングなどによって電子的にそのテクストと図版を収集・分析した。その結果、『世界の舞台』は当初の予想をはるかに超えて総数47版をかぞえ、いまも200部程度が現存するであろうことがあきらかになった。また、オルテリウスがその資料を参照した183名の人名とおおよその経歴も判明した。そのなかには聖職者や人文学者、金細工師なども含まれており、コミュニティの重層性が推測される。本年度の成果は、論文「オルテリウスの海獣-近代地図帳の誕生と学環の成立-」などとして発表した。
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東北大学総合学術博物館ニュースレター Omnividens No.35
ページ: 23
東北大学附属図書館報 木這子 Vol.34, No.2
ページ: 2-9
http://www.museum.tohoku.ac.jp/about/staff/ogawa.htm