研究課題
申請者は昨年度の研究成果を受け、引き続きイェリング石碑の詳密な分析を進めるとともに、デンマークにおける王権の意味を、ルーン石碑を通じて解明する方法を模索した。オスロで開催された第7回国際ルーン会議においては、昨年度調査したデータをもとに、ハーラル青歯王が建立したイェリング石碑のテクストとその石碑が建立されたコンテクストの双方を念頭に置いた英文報告を試みた。申請者の結論は、ハーラル青歯王によるイェリング石碑は、従来論じられていたように、単なる両親の死を想う記念碑ではなく、その石碑の視認者、つまりイェリング王族、デンマーク有力者層、スカンディナヴィア有力者層、そしてキリスト教ヨーロッパ世界からの来訪者という四つのタイプに対する、「デンマークを統一し、ノルウェーを支配し、デーン人をキリスト教徒となした」ハーラル自身の事績の誇示であるということであった。この点は欧米の研究史においては論じられてこなかった点であるため、報告に対し多数の質問が得られた。さらに報告者は、イェリング石碑だけではなく、デンマークにのこるすべての国王に関する石碑を網羅的に収集し、デンマーク王権がルーン石碑を用いてどのようにデンマーク支配を行ったのかを解明する研究に着手した。分析はまだ途上であるが、ノルウェー王権やスウェーデン王権が建立した石碑が現在ほとんど確認できないのに対し、デンマーク王権による石碑は複数存在する。比較史的な観点を取り込むならば、デンマーク王権は、ハーラル青歯王がそうであったように、ルーン石碑を建立することで何らかの効果を期待していたことが予測される。この点を解明することが今後の課題となる。
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「ヨーロピアン・グローバリゼーションと諸文化圏の変容」研究プロジェクト報告書
巻: 3 ページ: 69-85
Preprint on the webpage of the 7th international symposium on runes and runic inscription "Runes in context", Oslo 2010
ページ: 1-7
HERSETEC : Hermeneutic Study and Education of Textual Configuration (SITES 2)
巻: 4-1 ページ: 29-42
http://www009.upp.so-net.ne.jp/m-ozawa/