(1)研究の第3年度にあたる2011年度は、2010年度に引き続き、イギリスの首都ロンドンを構成する都市選挙区のひとつ、ロンドン・シティ(The City of London、以下シティと略記)の選挙や民衆政治をめぐる問題の調査・分析を、1780-1806年ならびに1807-1837年の各時期を対象にして進めた。そのさい、すでに研究調査を実施したウェストミンスタ選挙区との比較を通じて、この2つの選挙区の共通点・相違点にとくに留意して研究を進めた。 まず、2010年度から開始したシティ選出の庶民院(下院)議員をめぐるプロソポグラフィ的調査を継続して実施し、データベースの作成を進めた。そのうえで、ロンドン大学歴史学研究所、英国図書館(British Library)、同図書館新聞図書館で収集した新聞・定期刊行物・政治パンフレット等を分析した。以上をつうじて、ウェストミンスタと同様に、1800年前後にはじまる政治的急進化の傾向は確認したものの、シティのローカルな政治動向に左右されていたこと、また帝国=植民地をめぐる政治政策のうえで、シティの見解がかならずしも一致していなかったと推定するにいたった。 (2)本研究の成果として、まずウェストミンスタ選挙区の事例にかんしては、論文「ナポレオン戦争とイギリスのラディカリズム-コクリン卿の事例から」を『史学雑誌』(史学会編)に投稿したほか、論文「18世紀イギリスにおける海軍提督の政治的利用と論争-ウェストミンスタ選挙区の事例から」を『西洋史学』(日本西洋史学会編)に投稿し、現在査読もしくは原稿修正中の状況にある。また、ロンドン・シティ選挙区の事例にかんしては、本研究により得られた知見をふまえて、イギリス本国史とイギリス帝国史の統合、本国議会や政治文化における商業利害集団・植民地利害集団の歴史的意義を考察した論考、「18世紀イギリス帝国・議会・選挙区」を、秋田茂・桃木至朗編『歴史学のフロンティア2-帝国論とグローバル・ヒストリー-』(大阪大学出版会、2013年刊行予定)に掲載される予定である。
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