平成22年度は、夏期にベルギー王立図書館やブルッヘの市立文書館等で調査を実施し、未刊行史料の解読・撮影および研究支献の収集を行った。15世紀のブルッヘで増加するプロセッションについてはこれまでさほど多くの検討が加えられることはなかったが、王立図書館所蔵の年代記刊本をはじめとして、今回の調査で収集・分析された史料をもとに、とりわけ15世紀後半におけるその実態を明らかにすることができた。成果は、これまでの調査によるデータとあわせて、帰国後発表された論文等に活かされている。また同時に、今回の渡航では、プロセッションをはじめとする宗儀礼と贖宥の関係という新たな研究テーマにかかわる史料調査も行った。宗教儀礼に参加した市民に与えられる贖宥は、魂の救済を保証することで教会と市民、そして天上世界と市民を繋ぐ重要な媒介項となるものだが、これまで本格的にフランドル地方の事例を扱った研究は少ない。ブルッヘの各文書館に所蔵されている贖宥関連文書を分析することで、シント・ドナース教会を中心とする教会と都市民、そして教会と都市政府や君主の関係を明らかにすることが可能であると予想されるし、すでに調査の成果の一部は帰国後の口頭報告で披露されている。こうした宗教儀礼と贖宥の関係は、ブルッヘのみならず、ヘントをはじめとする他のフランドル都市へも適用しうるテーマであり、今後さらに議論の地を押し広げることが可能であると思われるが、今回はそのための堅固な基盤を形作る作業をなしえたと考えている。
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