研究課題/領域番号 |
21720274
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
青谷 秀紀 清泉女子大学, 文学部, 講師 (80403210)
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キーワード | フランドル / 宗教儀礼 / プロセッション / 聖年 / 贖宥 |
研究概要 |
本年度は、昨年度までに現地の文書館や図書館で収集した文献・史料をもとに、中世後期のフランドルおよび南ネーデルラント都市で見られたプロセッションや、贖宥をもたらす聖年の祝祭について考察をくわえ、複数の論文や学会報告の形にまとめた。プロセッションについては、ブルッヘの聖血行列やトゥルネの聖母行列といった大規模なプロセッションに確認される様々なプロセスに着目し、これらの儀礼が、都市の地誌的構成を象徴的に活用することで儀礼の場を聖地化すること、またそれゆえにこれらの儀礼を通じて都市が聖なる場へと変容する過程に中世都市のコスモロジーを読み取りうることを指摘した。こうしたプロセッションはしばしば贖宥付与の場となり、市民に魂の救いをもたらしうるメディアとしても機能したが、本年度はこの点をより深く追究し、プロセッションと併せてヘントをはじめとする南ネーデルラント都市にて開催された聖年の祝祭と、これによりもたらされる贖宥についても研究を行った。ブルゴーニュ公支配下の南ネーデルラント都市では、聖年の祝祭が君主の同意なくしては開催されえず、そのため都市は教皇庁のみならず君主およびその宮廷とも頻繁に交渉を行う必要があった。その交渉の過程から浮かび上がってくるのは、君主が都市の宗教文化に積極的な介入を行い、市民を心身の双方のレベルで支配しコントロールしようと試みていたことである。こうした宗教的領域におけるブルゴーニュ君主と南ネーデルラント都市の交渉の過程など、具体的な両者の関係を明らかにしえたことは、本年度の重要な成果であるといえよう。また、儀礼や祝祭といった信仰生活の公的な側面と、市民による私的な魂の救済の希求といった私的な側面の関係についても具体的な像を提示しえたことで、本年度の研究目的および実施計画はある程度達成されたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、本研究の成果を着実に複数の論文や著書にまとめてきたので、研究目的はおおむね順調に達成されているように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究、すなわちフランドル都市の宗教社会史研究の成果を総括することが、第一に求められる。そして、そこから得られた成果を踏まえた上で、より広範にブラバント公領やエノー伯領、リエージュ司教領といった南ネーデルラント諸領邦の都市に関する宗教心性や宗教儀礼の研究を実施し、広く中世後期北ヨーロッパの都市先進地帯における宗教文化のあり方を考察する必要があるだろう。そのため、まずはこれら諸地域に関する研究文献や、文書館の史料所蔵状況について調査を行う予定である。
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