第一次世界大戦期をフェミニストとして生きたメアリ・アレンが、ファシズムに傾倒していく過程をたどりながら、彼女のなかでフェミニズムとファシズムという二つの概念がいかに交差していったのか、その背景をさぐった。本年度実施した研究でとくに注目したのは、戦間期にアレンが立ち上げたWomen's Reserve(WR:女性予備役)という組織である。先行研究がないため、これまで不明な点が多かったが、Imperial War Museumに所蔵されている断片的な史料やアレンの書簡、警察史料、新聞記事やビラなどを通して、活動の実態に迫った。WRは戦争や労働争議、暴動といったあらゆる「危機」に対処することを目的として設立されたが、その軍隊的・ファシズム的性格から、常に社会の批判の目にさらされた。アレンは、こうした批判を尻目に、WR内に飛行部門を設け、女性パイロットの育成に力を注ぐ。第一次世界大戦を機に女性の職業開拓は目覚ましく進んでいたが、当時、「飛行」すなわち「空」の領域は、数少ない男性の聖域であり、女性はほぼ完全に排除されていた。フェミニストとして大戦期を「戦った」ものの大きな挫折を経験したアレンは、次なる戦争が「空」で展開することを予期し、女性を周辺的かつ補助的役割から解き放つ準備をはじめる。こうして結成されたのが、実戦で血を流すこともいとわない「戦う女たち」すなわち「女性空軍」だったのである。 アレンをはじめとする「空飛ぶ女たち」が追い求めたマスキュリニティをテーマに、WRとファシズムとの親和性について考察した研究発表(「『戦う女』のマスキュリニティ」)を、2011年2月24日開催の「比較女性史研究会」(於:大阪ガーデンパレス)にておこなった。
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