本年度の研究は実務的には主として、1920年代中葉~後半にかけてのイギリス政府文書(大蔵省文書)を閲覧することに充てられた。その上で、10および11年度に閲覧していた英国産業連盟(FBI)文書の内容をあらためて精査した上で、FBI文書と大蔵省文書が有していた視点の中で、どこが共通しどこが相違するのか、さらには可能ならば、それらの共通性と相違性を生み出した原因とは何であるのか、という点についての検討を進めた。これらの作業によって、両大戦間期イギリスの経済政策の最大の目標が何であるのか、それは当時のイギリス経済が抱えていた諸問題の解決に対して、貢献するものであったのか否か、といったことを検討するという本研究全体にわたる課題の全貌が明らかになると同時に、21世紀初頭における日本の経済政策との比較という本研究の基底となっている視角が生かされることになる。 本年度の研究から明らかになったことは第一に、少なくとも1920年代の後半(1927年)に至っても当時のイギリスは、特に業界、経済団体のレベルにおいては積極的に経済の構造問題を理解しようとせず、政府のマクロ経済政策措置にすべてを丸投げしていた、という点である。第二に、イギリス経済の構造問題が、25年金本位制復帰に伴い露見した「ポンド高」の是正、すなわち、割高になった為替レートさえ是正されればイギリス経済の問題点が一気に解決されるという、あまりにも安易で、硬直的な思考方法である。 上述の通り、本研究の基底には、21世紀初頭における日本の経済政策との比較という視角が存在する。当初のところ本研究者は、小泉政権時代の「構造改革」を念頭に置き、4カ年にわたる研究を継続してきたが、今後は安倍政権の「3本の矢」特に「成長戦略」をも念頭に置きながら、日英それぞれの経済構造問題についての研究を継続する所存である。
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