平成21年度は、まず人物埴輪の中心地である、関東地方を対象とした研究を実施した。 具体的研究としては、以下のような資料集成・資料観察・資料分析に取り組んだ。 なお、その他に本研究の基礎となるクィア考古学の理論・方法論についても研究を進めた。 1. 資料集成 関東地方の人物埴輪に関し、発掘調査報告書等に基づく集成作業と、分析資料に関するデータベース構築作業を実施した。データベースについては、集成によって得られた人物埴輪データや関連文献等に関する情報を収録した。また、個別の分析対象資料にかかわる関連文献を収集し、研究史の整理を進めた。 2. 資料観察 関東地方の人物埴輪について、関係諸機関の協力のもと実見し、観察と記録化を進めた。実見対象とした資料は、後の属性分析に備え、一古墳から複数個体の人物埴輪が良好に出土した資料群、および注目すべきジェンダー表現を有する資料を中心とした。平成21年度は、千葉県・栃木県・東京都に所在する資料を中心に実見を進めた。こうした資料観察により、身体表現の細部に関する観察を実施するとともに、観察結果については、写真撮影等による記録化を実施した。 3. 資料分析 実見・観察を行った資料を中心に、関東地方における人物埴輪のジェンダー構造について追究するための、基礎的事例分析を実施した。分析・考察のプロセスについては、まず一古墳から出土した人物埴輪を対象として、人物埴輪の身体表現に関する属性分類を行った後に、個体間の属性間関係に関する分析を行った。そして身体表現の属性間関係をもとに、個体の区分原理とジェンダー化の関係性について考察した。その結果、分析対象資料において、従来の性別二分法による男女区分では捉えられない属性間関係等を確認しえた。こうした個別的な事例分析を積み重ねるとともに、事例間の比較検討を実施した。
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