本年度は、昨年度に調査報告を行った岡山県津山市殿田1号墳・荒神西古墳出土銅鋺について、さらに調査を進めた。新たに入手した鉛同位体比・金属成分分析の結果では、朝鮮半島産鉛を含む殿田1号墳出土銅鋺が銅・錫・鉛合金であるのに対し、日本産鉛を含む荒神西古墳出土銅鋺は錫を含まない銅・鉛合金であることが判明した。各遺跡出土品や法隆寺、正倉院伝来品などの既発表データなどと対比させ、日本列島出土品のうち、6世紀後半から7世紀初頭の段階の銅鋺や、7世紀後半以降でも朝鮮半島から伝来したと考えられる製品は、錫の成分比が高い資料が多く、7世紀後半以降の、とくに日本産鉛を使用している製品は錫が少ない、または使用されていないという資料が多いという傾向を示した。鉛原料の出自の差と製品の金属成分比の差は、当時の錫・鉛原料の入手性や、製作工人たちの製作技術などの問題と考えた。また、荒神西古墳の年代から、日本産鉛の利用開始時期が7世紀半ばまで遡ると予測している。以上の調査結果および考察は、2010年8月に島根県古代出雲歴史博物館において開催されたアジア鋳造技術史学会出雲大会において発表を行った。 その後、さらに銅鋺製作の問題を追及するために、広島県竹原市横大道7号墳、香川県高松市久本古墳、岡山県真庭市定北古墳、鳥取県智頭町黒本谷古墳、それぞれの古墳出土の銅鋺について資料調査を行った。装飾付大刀、隋唐鏡は継続して資料収集を継続しており、次年度に成果を報告したい。
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