瓦を通して6~8世紀代における日朝交渉の動態を考古学的に検討するために、朝鮮半島、特に新羅の古代寺院の瓦資料を集成した。今年度は、新羅の中央である慶州地域の古代寺院について、発掘調査報告書、関連論文を集成し、整理を行った。また、日本飛鳥地域において、飛鳥池東南禅院所用の瓦と本薬師寺出土軒瓦について、検討を行った。本薬師寺は、日本最初期の双塔式伽藍の寺院であり、これまでにも新羅寺院との関連性が指摘されていた。今回はその所用瓦について、笵傷進行を手掛かりとして詳細な変遷を把握し、堂塔の造営順序について整理を行った。この作業については、数年前から実施していたが、今回、論文として成果を発表している。 次に飛鳥寺東南寺院所用の軒丸瓦については、以前から、川原寺式→本薬師寺式→藤原宮式という主流的な軒丸瓦の変遷に当てはめることができない特異な形態、文様であることから、渡来的な色彩の濃い資料として注目されていた。今回、韓国側の資料集成と並行して、所用瓦と推定される5型式について、その系譜関係について検討を行った。その結果、瓦当文様は新羅や中国南朝、百済的な要素が組み合わさったもので、相対的に新羅的要素が強い点、接合される丸瓦も「竹状摸骨丸瓦」で百済的な要素として把握できる点、その一方で、各型式の製作技法や法量には統一性が認められる点などが明らかとなった。おそらく、飛鳥寺東南寺院所用の軒丸瓦は、先進的な技術・情報を入手できる環境の中で、製作が行なわれたと判断できる。そのような環境を準備できる主体とは、おそらく、遣唐使として入唐し、帰国後に東南禅院を建てた道昭であろう。来年度は何らかの形で成果を公表する予定である。 以上のように、いくつかの資料について具体的な日朝関係の内容を明らかにすることができた。
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