本研究の目的は、紀元前1500~500年頃にリモート・オセアニアの島嶼世界への拡散・適応に成功したラピタ人の実態を先史学的に明らかにすることである。島嶼環境というこれまでの人類にとって未知の環境に対し、ラピタ人がどのような適応戦略をとったのか、そしてその資源開発の実態はどのようなものだったかを、先史学的に解明しようというものである。考古学的調査によって得られたデータを基に、人類学的・生態学的モデルを適用することで、よりトータルなラピタ人像を描くことを目指す。その成果は、環太平洋地域におけるモンゴロイド集団の拡散についての理解、さらには総合的な人類史の復元に資するものとなるだろう。 平成22年度ではフィジーのビチレブ島において考古学的踏査をおこなった。ビチレブ島は紀元前1100年頃にラピタ人によって植民されたと考えられており、メラネシアからポリネシアへの拡散の中継地にあたる重要地点である。この現地調査によって遺跡の分布地図を作成することができた。また考古学的踏査に加え、現在の伝統的集落における家屋配置・植生分布・資源利用の実態についての民族考古学的調査を実施した。それによってラピタ人の資源利用・適応戦略を復原するためのデータを収集することができた。この成果は、オセアニアの伝統的集落と自然が織り成す「文化的景観」を評価する際にも資する内容である。現地調査以外では、オセアニアにおける有用植物と物質文化に関するデータベースを作成しており、なお継続中である。
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