本研究では、オセアニアの島嶼世界に人類史上初めて拡散したラピタ人の適応戦略を、その資源利用および集落立地の観点から解明するのを目的とする。その手法として、これまで解析してきた考古学データに加え、現在のオセアニア地域の伝統的集落の景観についての民族考古学的データもあわせ、通時的モデルの確立を目指す。 今年度は、ラピタ人の遺跡が分布するフィジー・トンガ・サモア地域における遺跡周辺の環境と伝統的集落の景観との比較・解析をおこなった。加えて、オーストロネシア語族の拡散と大きく関連し、ラピタ人の拡散を理解する上でも重要な、周辺地域である台湾・フィリピン・ミクロネシアにおいても比較データの収集をおこなった。 特に本年度は、前年度まで実施していた陸上における環境・景観調査に加え、海上における環境・景観調査も実施した。特にオセアニアの島嶼環境では、島の周囲にサンゴ礁のリーフが取り囲み、その内側には水深の浅い礁湖(ラグーン)が展開する。この礁湖は豊富な海洋資源を擁し、それがラピタ人の適応に大きな役割を果たしたと考えられる。それに加え、リーフやチャネルの詳細な地形を海上から観察することにより、カヌーによるアクセス性を評価し、それがラピタ人の居住域の選択にどのような影響を与えたかについての評価をおこなった。 本年度は本研究課題の最終年度であるので、これらのデータを総合化し、実証的な通時的モデルの構築を試みた。その成果をとりまとめたものを、目下学術雑誌に投稿中であり、ちかぢか公表される予定である。
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