交付申請書の「研究実施計画」においては、考古遺物・鋳造技術・文献のそれぞれの調査研究から、東アジアにおける失蝋法技術の解明を目指すとした。 考古遺物の調査研究として、本年度は、中国ならびに日本における失蝋法関連遺物および鋳造関連遺物の集成・データベース化をすすめるともに、中華人民共和国北京市・河南省・湖北省・上海市にて関連遺物を調査し、当該分野の研究者とも意見交換をおこなった。遺物の調査によって、股周時代における箔や送付管などの鋳造関連遺物の使用形態の一端を明らかにすることができ、国内においては申請者が所属する奈良文化財研究所や大阪府文化財センターが所蔵する飛鳥奈良時代の鋳造関連遺物を調査した。これらの資料調査においては、本年度の経費で購入した一眼レフカメラ・携帯型顕微鏡などを活用し、遺物の細部にわたり観察・記録をおこなった。 鋳造技術の調査研究として、京都に所在する鋳金工房「和銅寛」にて鋳金家の小泉武寛氏のご指導により実際に失蝋法によって鋳造作品を製作した。 文献の調査として、中国および長城地帯・朝鮮半島・日本列島・雲南・東南アジアなど各地における失蝋法に関する先行研究を集成・整理し、各地における失蝋法の特性、および出現・展開過程について考察をおこなった。 中華人民共和国における資料調査では現地の研究者と意見交換をおこなうとともに、国内の複数の学会・研究会に参加し、関連問題について各分野の研究者と意見交換をおこなった。また、飛鳥奈良時代の鋳造関連遺物の調査成果の一部は日本鉄鋼協会社会鉄鋼部会「鉄の歴史-その技術と文化-」フォーラム2009年度秋季講演大会(9月16日京都大学)にて報告をおこなっている。
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