研究概要 |
4年間の計画期間の2年目である平成22年度は,前年度に作成したENR誌の業者別海外受注額等のデータベースを更新すると共に,この資料に関するENR誌での解説記事の読み込みと整理の作業を進めた.この作業により1980年代以降において,国際建設業者がどのように展開し,その背景としてどのような要因が作用していたのかを概観することができた. また,前年度より継続して英語圏における建設経済学に関する諸論文・テキストの整理・検討作業を進め,(1)建設経済学というディシプリンの成立の背景と現状,(2)経済発展段階と建設需要の関係性,(3)国際建設業者の概念とその競争戦略,の3点を中心に検討を行った.建設経済学は,日本同様に工学を中心に成立している研究分野である.建設経済学の注目すべき研究領域の1つは,経済発展段階と建設需要の関係性に関する分析であり,経済発展の初期の段階において国民経済に占める建設業生産の比重は高まっていくが,安定成長段階になると新規建設需要の縮小や維持・管理工事へのシフトによってこの比重は低下に転じることが主張され,その検証が行われてきた.また,本国外で工事を受注・施工する国際建設業者の実態とその競争戦略に関する研究も近年,盛んに行われている.地理学的な視点からみて特に興味深い知見は,(1)現地生産を必要とする海外工事では言語や労働・商慣行などの文化的距離が重要な意味を持っている,(2)開発援助などを通じた個別の国家間関係が国際建設業者の成立基盤の一端を担っている,という2点である.
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