研究概要 |
22年度は,調査のまとめと発表,論文化を重点的に行った。研究の目的における「日本における闘牛の存続の要因を解明する」点について,現代では闘牛を通した担い手の交流が活発になっていることに着目し,以下の成果発表を行った。 まず,21年度における研究と関連して,地理科学65号に「闘牛大会の新規イベントとしての可能性」を掲載した。論文では,闘牛の習慣が全くない地域において行われた「闘牛フェスティバル」に着目した。そして,イベントが開催されるまでの過程,観客へのアンケート調査の結果を通して,闘牛が行われていない地域において,闘牛大会を行うことの意義について検討した。その結果,収益の面では赤字となるものの,闘牛自体は観客から好評価を得ており,闘牛開催地の大きなPRにもつながると結論づけた。 次に,名古屋大学で行われた"The Oxford-Nagoya Environment Seminar"にて"Bullfighting in Japan : Social Relationships Created by the Event"とのタイトルで国際発表を行った。発表の中では,各闘牛開催地における特色やそれぞれの闘牛の存続要因について述べた上で,各地域における習俗の比較を行った。特に,新潟県中越地方と,徳之島における差異に着目した。勝負付けと引き分け,自分の牛が勝った時の表現の仕方のルールなどから,闘牛に対する価値観の違いを検討した。 海青社から刊行予定の『ネイチャー・アンド・ソサエティ第2巻』では,闘牛における牛について,犬や猫などのペットとの違いを指摘した。もっとも大きな違いは,ペットが一つの家庭で生涯をまっとうすることが多いのに対し,闘牛は転売が繰り返され,複数の牛主に飼われることがほとんどである。それは,闘牛では,たとえ牛に愛情があっても負け続けた牛は手放さなければならないという暗黙のルールがあるためである。徳之島の牛主は牛の転売先として沖縄を選ぶことが多い。これは,両地域における牛の飼い方の差異が牛の長所を引き出し,牛をより長く活躍させることができるからである。
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