本研究課題は、研究代表者がこれまで取り組んできたケベック州外のフランス語系住民に関する研究成果との比較を念頭におきつつ、既存の統計資料などの集計データを用いた分析をふまえて、景観観察、質問紙調査、聞き取り調査などにより非集計データを収集・分析することで、ケベック州モントリオールにおける英語系住民の言語使用とアイデンティティを明らかにすることを目的としている。なお、英語とフランス語とを公用語とするカナダでは州ごとにも公用語が定められており、ケベック州外のフランス語系住民とケベック州の英語系住民のことを公用語マイノリティという。 本年度はマイノリティの言語使用やアイデンティティに大きくかかわる要素として教育に注目し、ケベック州において調査を実施した。具体的には、まず教育・レジャー・スポーツ省において英語系住民を対象とする教育制度や学校統計に関する資料を入手した。また、モントリオールにおいて2つの小学校と1つの中等学校を訪問し、校長らに聞き取り調査を実施した。さらに、長期間居住する英語系住民を訪ね、子どもの教育を含めライフヒストリーについての調査を実施した。カナダでは1982年憲法の規定により少数派言語教育権が認められているが、ケベック州の英語系住民は制度的にも教育行動という点からもフランス語による教育を積極的に取り入れており、歴史や地理のようなアイデンティティ形成にかかわる科目がフランス語で教えられている場合も多い。このことは、英語圏カナダとは異なるアイデンティティ形成を促す要因であり、また、同じ公用語マイノリティでもケベック州外のフランス語系住民の教育行動とは大きく異なっている。
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