本研究は、国境地域における越境的な地域連携の形成と発展の過程を、新たな地域の形成という観点から捉え直し、実証的に分析することを通じて、そこにおける新しい地域ガバナンス(地域統治)のあり方や地域形成のメカニズムを考察することを目的としたものである。具体的な調査対象地域として、スイス・ドイツ・フランスの国境地域であるオーバーライン地域を選定し、企業・大学・自治体などの多様な地域主体の参加がみられるライフサイエンス関連の産業集積支援事業であるBioValley事業を事例として取り上げた。 本年度は、2013年2月に約2週間、オーバーライン地域で現地調査を実施した。バーゼル大学地理学教室、フライブルク大学地理学教室、北西スイス経済研究所等で現地研究者との議論の機会を得るとともに、BioValley事業に参加する主体へのヒアリング調査を実施した。今回の調査では、特にフライブルクの企業や商工会議所でのヒアリング調査に成果があった。調査の際には、BioValley事業での連携と、EU、国、州、県などの諸政策との関係に重点を置いた。また、前年の調査で明らかになった、近年の世界的不況の地域経済への影響や、EUの財政的支援終了後の戦略等についても調査の焦点をおいた。 これらの研究活動により、急激に変化しつつある地域経済環境のもと、国境を越えたライフサイエンス産業のネットワークも変容しつつあり、そのガバナンスの構造や特徴、他の既存のガバナンスとの関係が明らかになった。調査対象の関係から年度末の現地調査遂行となり、当該年度中に最終的な研究業績を発表できなかったが、現在論文として投稿中であり、次年度中には公表する予定である。
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