本研究の目的は、人口減少の地域的展開を丹念に探るとともに、大都市圏や日本全体での人口分布の変動過程を検証することにある。本年度の研究状況とその成果は以下のように整理できる。(1)基本データの作成:『全国人口・世帯数表人口動態表』などを利用して、近畿地方全市町村について、住民票に基づく人口、出生数、死亡数、転出入数の人口データベースを作成した。対象を近畿地方に限定したのは、平成の大合併の影響で時系列分析が困難であることによる。(2)京都府を対象とした事例研究とその学会報告:前述のデータを用いたケーススタディとして、京都府下の市区町村を対象に、自然増加と社会増加の関係に着目して地域人口の変化の過程を検証した。その結果、地域人口の変化は、地域経済と住宅供給における歴史と現況、そしてそれらの結果としての年齢構成が相互に作用したものとして理解できることを示した。(3)都市内の人口分布に関する論考の執筆:日本の都市的地域が等質地域から結節地域へと変化したこと、それに伴い都市内での人口分布は都市圏を単位として把握すべきことを示した後、戦後の日本の都市圏で人口の郊外分散が継続したが、近年、大都市を中心に都心回帰現象が強まってきたことを示した。(4)旧軍港市の発展と人口変動に関する現地調査と論考の執筆:都市発展の経緯や産業構造の類似する旧軍港市は、近年、人口減少が著しい。旧軍港市間に見られる共通性と差異性を検討することを目的として、横須賀市と舞鶴市を訪問し、現地調査を行った。現在、舞鶴市の発展過程に関する論考を執筆中である。(5)沖縄県での調査:具体的検討には至っていないが、近年、高い人口増加率を示す沖縄県で現地調査を実施し、沖縄県や那覇市をめぐる人口移動に関するデータを入手した。以上の成果は、人口減少期の日本社会を考える上での基礎的資料としての重要性を有するものと考えている。
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