昨年度は駅地図や駅誌など文献資料の収集を中心に行ったが、今年度はそれらの分析結果をもとに、主に現地調査を行った。現地においては察訪本駅の立地復原、駅地図に描かれた建造物や地名および描写領域の比定、聞き取り調査、郷土史関係資料の追加収集などを行った。現地調査の対象となったのは、駅地図が現存する慶尚道及び全羅道に所在する15の察訪本駅である。 調査に先立って15駅全ての地籍原図、二万五千分の一地形図、二千五百分の一国家基本図を入手し、また駅地図もマイクロフィルム版のみならず、ソウル大学校において許可を得て、原本のカラー写真撮影を行った。調査の結果を元に景観復原図を作成したが、その結果以下のような傾向が明らかになった。 第一に、察訪本駅の立地が風水地理説に則っている場合が多いことだ。駅地図はもともと風水地理説に符合するように誇張して描かれているが、そうした思想が駅地図という仮想の空間のみならず、現実の立地選定においても適用されていたことになる。こうした傾向は朝鮮王朝時代の一般的な地方行政都市(邑治)においても観られるものである。 第二に、駅村は駅地図に描かれているように独自の領域を持ち、また市場に象徴される経済的機能、駅田に代表される農業機能をもち、社会的に自立した存在であったことが確認された。いうなれば、駅村は「ミニ邑治」といえる存在であったのだ。 本研究の成果は現在論文として執筆中であるが、派生した内容については今年度において複数発表を行った。
|