研究概要 |
モデル地域として設定したネパール東部のカンチェンジュンガ地域で現地調査を実施し,研究代表者が詳しい調査を実施した1998-2001年以降の生業活動の変化の把握と,災害リスク認識・災害対応に関する予備的な調査を行った。生業活動の追跡調査では,農牧業による土地利用形態や世帯レベルでの経営規模には大きな変化がなく,現地住民の生業戦略については概ね過去の調査結果を活かせることを確認した。現地における災害リスク認識としては,雨期に増水した河川に流されての事故死,斜面災害による生活道被害,大雪による家畜の大量死のほか,氷河の後退や凍土の融解に関係する草地の減少・劣化が発生しているとする現地住民の話を聞き取った。また,これらの自然災害の他に,野生動物に起因する家畜被害や,都市部への交通ルート上のバス事故など人為災害についての言及もあった。これらの調査結果から,今後,高地における「災害」の概念を再検討したうえで,高地で人々が暮らし続けることに伴うリスク要因を総体的に把握する方法論を開発する必要があることが明らかになった。なお,ネパール・ヒマラヤと同じチベット系高地住民が暮らす他地域との比較研究については,インド北西部のラダーク地方で他の資金によりネパールのモデル地域と共通する内容の現地調査を実施し,上述した災害リスク認識の調査方法の検討に役立てた。平成22年度には,高地住民の災害リスク認識・災害対応に関する体系的な調査方法を設定し,ネパールのモデル地域とインドの比較対象地域で実践する。一方,研究成果の一般化を目的として当初想定していたネパール国内における二番目以降の調査地での現地調査の実施については,日程的に困難であると判断されるため,ネパール・ヒマラヤ高地全体を対象とした生業活動と災害リスクに関する統計資料分析・文献調査を行うことで当初想定していた研究成果に近いものを得ることを目指す。
|