研究概要 |
当該年度の前半は、主に文献資料を使って、チュヴァシで卜占や妖術の理解が形成されるにいたった歴史・文化的背景をたどった。その中でも特に、卜占や治病術に用いられる呪文を手掛かりに、チュヴァシの口碑・口承文芸におけるヴォルガ川の表象について考察を行った。その成果は、2009年7月31日と8月1日に神戸大学で行われた合同研究会で報告し、続いて10月には現地のロシア・チュヴァシ共和国でも発表した(本人はビザ発給にトラブルが生じたため、現地参加できず)。これらの発表の際に得られたコメントを参考にした上で、さらに考察を加えて論文の形にしたものを『北方人文研究』誌に投稿したところ、第3号(2010年3月)に掲載された。 年度の後半には、ソ連時代に行われた農業集団化や、ソ連崩壊後の農業経営のあり方等の歴史的経緯をふまえつつ、社会主義時代から今日に至るまで人々の経験してきたことがらが、どのように記憶となって形成され、今日の行為につながっているのかについて考察を深めた。 2010年2月中旬から3月中旬にかけて、チュヴァシ共和国のチェボクサルィ市とモルガウシ地方を中心に追加調査を行い、これまでに集めてきたデータの補充と見直しを進めた。調査では、1)歴史的文献資料の収集、2)現在における卜占や民間療法の実践についての実態調査、3)現地における政治・経済の動熊にそれぞれ焦点を当てて、調査活動を行った。この調査から得られた結果については今後の考察の対象となるが、それまでにデータをもとに進めてきた考察の結果を、2010年3月20日に国立民族学博物館で行われた国際会議"Ideals, Narratives and Practices of Modernities in Former and Current Socialist Countries"において報告した。
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