春から夏にかけては、調査に必要な手続きを進めながら、主に文献による研究とその整理を行った。 9月から10月半ばまでの1カ月半の間、ロシアのチュヴァシ共和国内の数か所で、卜占及び宗教的儀礼に関する実地調査と資料収集を行った。その間に、現地の研究機関が組織して開かれた国際会議「ユーラシア文明史におけるチュヴァシの言語とエトノス」に参加し、チュヴァシ人の信仰形成過程の歴史的解釈を試みる内容の報告を行った。 チュヴァシで行った報告内容をベースとし、現地で得られたフィードバックや、収集してきた資料を反映させたうえで、年末から年始にかけて『ユーラシア世界』(東京大学出版から発行予定)所収の分担論文を執筆した。これは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、チュヴァシ人住民とロシア正教会の間に生じていた葛藤を糸口として、東西文明の関係のあり方を捉え直そうとするものである。 またこれと並行して、かつて社会主義に基づく国家運営を行った(あるいは現在行っている)国々の近代化の経験が、今日における人々の生活をどのように形作っているかを扱った論文集の、編集作業を行った。自らその中の1章として担当した、チュヴァシにおける農業集団化の記憶に関する論文を英訳し、さらに文化人類学の学問的背景と照らし合わせて考察した論文を、民族学博物館の『研究報告』に投稿、掲載された。
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