当初の計画通り、春から夏にかけては、昨年までに収集した資料データを整理し、成果報告の論文にまとめる準備を進めた。9月初旬より1カ月間は、ロシア・チュヴァシ共和国のチェボクサルィに滞在し、最終的な調査を行った。現地では、昨年の調査に引き続き、北部のモルガウシ地区と、南部にあるバトィレフ地区を回って、聞き取り調査の補充を行った。今回の調査では、主に昨年までに集めたデータを確かめ、その変動の具合について確認する作業を行った。 今回の調査によって確認されたことは、次のような事柄である。卜占のように、旧来から存続する手段に頼るべき事態が生じた時、その依頼者の行為の動機を支えているものは、ソ連時代に導入された境界設定のように、過去の経験に基づくものである。ただし卜占のような既存の制度をどのように活用するかは、その都度生じる行為者同士の関係に応じて変わってくる。このことについて、事例をまじえて論考を行った結果は、明石書店から出版された『社会主義的近代化の経験―幸せの実現と疎外』所収の論文でまとめた。 一方で、現代の卜占のあり方を形作る土台となった歴史についても、現地の文書館等で集めた資料を使って論考をまとめた。「複合する視線-チュヴァシの在来宗教とロシア正教会」と題する論文が、シリーズ『ユーラシア世界』(東京大学出版会)から近日刊行される予定である。また、当該の内容については、北海道大学文学部で開かれる歴史文化研究会においても報告を行う。
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