文化人類学においては、酒の醸造および飲酒に関する多様な文化を記述し、特に贈与交換論においては、酒は社会性の高い財として分析されてきたが、近代化・グローバル化が進む現在の世界において、酒にかかわる文化も世界的に画一化される傾向にある。 本研究は、グローカルな飲酒文化の形成のありようを明らかにすることを目的とし、ボルネオ島の先住民であるドゥスン族の社会を対象とする現地調査に基づき、生活の急速な近代化に伴う飲酒文化の変容が、彼らの日常生活にもたらす影響を分析する。 全二カ年の研究期間の初年度である本年は、グローバリゼーションの状況下にある当該社会の広汎な意味での飲酒文化の検討を調査研究課題の中心とし、主に下記のような成果を挙げた。 第一に、東南アジア島嶼部地域における酒および飲酒の慣行に関わる民族誌的資料を中心に、特に文化変容とのかかわりの面から文献研究を行い、ドゥスン族の飲酒文化の特徴を明確にした。第二に、これまでに蓄積している資料・知見と、新たに得られた資料との比較に基づき、当該社会の酒に関わる物質文化の変化について、より精緻な分析を行い、当該社会の飲酒文化の変容過程をより明確にした。第二に、村落内の酒宴および酒の流通についての調査結果から、酒を媒介とする人間関係の実態を解明した。 上記の成果に基づき、市場経済や情報化の拡大などに対する、小規模社会の人びとの生活実践における適応について、経済人類学、資源人類学、生態人類学の先行研究を参考に、理論的整理を進めている。
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