当年度は二カ年の研究期間のうちの二年度目に当たる。 初年度に行った現地調査においては、特に、当該社会の酒に関わる物質文化の変化の精緻な分析、および酒を媒介とする人間関係の実態を解明したが、第二年度の現地調査においては、酒の売買や酒宴における人々の実際の行動をさらに詳細に記録分析することで、酒を媒介してのコミュニケーションの特徴を明らかにした。その上で、市場経済や情報化の拡大などに対する、小規模社会の人びとの生活実践における適応について、経済人類学、資源人類学、生態人類学の先行研究を参考に、理論的整理を行った。 その結果、ドゥスン族社会は、その伝統的な酒の醸造と飲み方に、外部から流入した工業製品やその廃物を利用し、その酒宴でのコミュニケーションのあり方を含め、新たな飲酒文化を創造していることが明らかになった。 グローバル化が進む中、酒に関わる文化も世界的に画一化される傾向にあり、酒は商品であり、健康に悪影響をもたらしうるドラッグであり、個人的な嗜好品である、という「西洋近代的」価値観に方向付けられているように見える。しかし、ドゥスン族社会においては、グローバリゼーションの強い影響を受ける状況下に条件付けされながらも、酒の醸造と飲酒の方法においては、自律的な対応によってローカルな創造性を発揮していると言える。
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