平成22年度には、研究目的を達成するために四つの研究課題を掲げ、それぞれについて以下のような研究成果を挙げた。 第一に「アマズィーグ運動の歴史的背景の研究」についてであるが、口頭発表「人類学的ベルベル研究の展開」(於:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)により、研究成果を公表した。第二および第三点として、「アマズィーグ運動の現状把握」と「一般住民の故地支援に関する実態調査と研究」を掲げたが、2010年夏季に実施した現地調査を通じて、それぞれの課題の遂行にあたった。第四に、これまでの研究成果をバルセロナで開催された「中東研究世界会議」(WOCMES)で発表することを課題として掲げたが、予定通り研究発表を実施した。 研究の意義と重要性については、とくに、これまでの研究成果を集約した第四点目に顕著にみられる。欧米系の研究者の間では、近年、アマズィグ運動の研究を進める向きはある。しかし、それらの研究においてはベルベル人(アマズィグ人)の故郷で展開しているイスラーム復興運動の動きがアマズィグ運動と並行したアイデンティティ運動であることや、両者の相互関係を視野におさめた研究は、未だ存在しない。この点において、研究代表者の研究は、国際的にみても独創的なものであり、北アフリカにおける先住民運動の理解を深める上でも重要な意義を有したものであるといえる。この点を受けて、国際学会において欧米系の研究者はもとよりモロッコの研究者からも高い評価を得ることができた。 さらに、第4点目と関連することだが、アマズィグ運動の展開を検討するうえで研究代表者が重要と考えている宗教的側面の研究について、本年度は、学術雑誌『アジア・アフリカ言語文化研究』誌上に「聖者信仰の「本質化」を超えて-モロッコにおけるフキーの治療の事例から」と題した論文を投稿し、査読の上、掲載された。
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