平成22年5月には、南インド沿岸部における重要な神霊祭祀であるブータ祭祀を律する法とその実践について、伝統的な慣習法(カットゥ)ならびに英国統治期以降の近代法の関係に関する研究結果をまとめ、学術誌『文化人類学』に発表した。また、平成23年1月25日から平成23年3月8日まで、スコットランドのエジンバラ大学南アジア研究センターに在籍し、スコットランド国立図書館ならびにエジンバラ大学附属図書館において、南インドの神霊祭祀と英国植民統治に関する文献研究を行った。 これらの研究はいずれも、英国による南インドの植民地支配と、これに対する在地社会からの複層的な応答と対処のあり方をブータ祭祀の変容に焦点を当てて明らかにしようとするものである。植民地化による在地社会の変容に焦点を当てた従来の研究の多くは、在地社会の政治経済分析に偏重する傾向があった。これに対して本研究は、領主層による土地の支配と資源の再分配、母系制社会における女性の生殖力の管理、および在来神の祭祀システムの支配と密接に結びついたブータ祭祀を中心として、人々の信仰や儀礼という側面から19世紀以降の南インドの社会変化を分析する視座を提起するという点で重要である。今後、南インド・カルナータカ州マンガロールでのフィールドワークで得られた一次資料と文献調査で得られた資料をもとに、南インドの植民地化と在来祭祀の変容についての論文を執筆し、学術誌に投稿する予定である。
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