本研究は、沖縄とハワイを結ぶトランスナショナルなネットワークに焦点を当てた多現場民族誌を作成するプロジェクトの一環として実施されるものである。本研究では、特にホノルル大都市圏を中心に展開してきた沖縄糸コミュニティに注目し、その持続と変容の過程を明らかにする。現代の沖縄系コミュニティは、ハワイにおける沖縄文化の継承と共有を主な目的として様々な活動を展開している諸団体によって構成されるが、今年度は、戦前のハワイにおける沖縄文化の歴史をたどりなおすと同時に、Young Okinawans of HawaiiとUkwanshin Kabudanという二つの沖縄系の団体に焦点を当てて調査を行なった。Young Okinawans of Hawaiiは、1980年にハワイの沖縄糸三世の若者たちによって設 立された団体で、ボンダンスを中心に、沖縄文化を学び、広める活動を行なっている。また、Ukwanshin Kabudanは、1998年に同じくハワイで結成された団体で、沖縄の伝統文化の継承と普及を目的として、古典芸能公演、沖縄語教室、文化ワークショップなど多彩な活動を行なっている。調査からは、近年、この二つの団体は協力関係を強めながら-特にUkwanshin Kabudanが活動理念などの面でYoung Okinawans of Hawaiiを先導する形で-様々な活動を行なっていること、また、Ukwanshin Kabudanの中心メンバーは、ハワイと沖縄の間を頻繁に行き来しながら、沖縄の人びととのつながりを強めていること、そしてこうした一連の活動を通じて、この二つの団体が、ハワイの沖縄系コミュニティにおける影響力を強めていることが明らかになった。また、Ukwanshin Kabudanが掲げている「正統な沖縄/琉球文化への回帰」という活動理念が、ハワイや沖縄における沖縄文化をめぐる状況だけでなく、1970年代以降、ハワイにおいて興隆してきたネイティヴ・ハワイアンの文化復興運動や主権回復運動にも、直接的・間接的に影響を受けていることも明らかになった。
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