現在、アフリカの地域社会は困難の最中にある。日本を含めた国際社会は、アフリカの貧困や食糧不足等といった問題群を前に、その援助額の増大を決定したが、開発計画を受容した社会の多くは、生活環境の悪化に苦しんでいるのが実情である。本研究では、東アフリカ農村の社会人類学的な比較研究を通じて、開発と文化の総合的な理解を目指し、自らの未来への展望のもとで自社会を発展させていく事を可能とする開発の人類学的理論の枠組みを模索するものである。 本年度は、筆者がフィールドとしているケニア山南麓での政策と地域社会の総合的な理解を念頭に置き、「ケニア山森林保全政策」および「2007年大統領選挙後の国内避難民」についての調査を開始した。具体的には、以下の点が上げられる。(a)「ケニア山森林保全政策」が展開する村落調査、および関連資料の収集:同計画は、保全という名において、資源の持続可能な活用としての森林開発を射程に入れたものである。研究題材として、ギクユ人住民に森林管理を担わせる住民参加型の原型とも言える方式を採用した一方、その事に関係する諸機関での議論が拮抗している点に、多くの検討の余地が残されている。(b)政策と文化の葛藤について、2007年末の総選挙後に流出した国内避難民との関係も無視し得ない。住民の内発的な発展への志向について、多くの示唆が得られる。(a)(b)の同時遂行によって培われる幅広い視野のもとで本研究全体を枠付ける論文の執筆を開始した。
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