近年、アフリカ開発会議や主要国首脳会議での議論において、国際社会はアフリカ諸国に対する援助額の増大を決定したことは記憶に新しい。日本もまた、稲作などの在来知を生かし、貿易赤字と食糧増産に寄与するための支援策を講じている。しかしながら、アフリカの地域社会は今もなお、貧困や紛争、食糧不足等といったあらゆる困難の最中にある。とくに、開発計画を受容した地域住民の多くは、社会・文化的な変化を目の当たりにし、生活環境の悪化に苦しんでしまう場合もある。本研究では、東アフリカ農村の社会人類学的な比較研究を通じて、開発と文化の総合的な理解を目指し、自らの未来への展望のもとで自社会を発展させていく事を可能とする開発の人類学的理論の枠組みを模索することを目的としている。 というのも、学問的な状況として、アフリカ諸地域における政治経済的な状況が激しく変化する中で、様々な開発を実践している社会の微細な動きを描出した研究は少ないという点にある。そして、そうした状況における理論化の試みは殆ど見られないのが現状である。これを受け、受領者はケニア共和国のギクユ人地域、および近隣のバントゥー系言語を話す住民を対象として、これまで実施した個別実証的な研究(フィールドワークなど)を基礎に開発政策の影響を受ける東アフリカ地域における比較研究を行い、開発と文化の連関を応用的なレベルにおいて考察してきた。平成24年度は、ケニア共和国の首都ナイロビ、およびセントラル州、リフトバレー州、隣接地域でのタンザニア共和国のアルーシャ地方でのインタビュー&資料調査を実施した。短期間での渡航のため、以前から付き合いのある研究助手にお願いし、村々や各機関での聞き取り調査を行った。また、2007年12月末の大統領選挙に伴う民族紛争を受けて、世界各国からの開発援助と地域社会の関わりの動態をリサーチした。
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