平成25年度は、ケニア共和国の中央高地を中心とした地域社会を対象として、これまで実施した個別実証的な研究を基礎に開発政策の影響を受ける地域の比較研究を行った。フィールドワークの多くは、セントラル州および首都ナイロビでのインタビュー、資料調査を実施した。 近年、国際社会はアフリカ諸国に対する援助額の増大を決定している。日本もまた、稲作などの「在来知」を生かし、慢性的な貿易赤字と食糧増産に寄与するための支援策を講じている。しかしながら、アフリカの地域社会は現在もなお、貧困や紛争、食糧不足等といったあらゆる困難におかれている。本研究では、東アフリカ農村の社会(文化)人類学的な比較研究を通じて、開発と文化の総合的な理解を目指し、自らの未来への展望のもとで自社会を発展させていくことを可能とする開発の人類学的枠組みを模索することを目的としている。 フィールドワークを行ったケニア共和国は、資源をめぐる様々な葛藤を抱え込んできた歴史があるが、その発現の一つに2008年に深刻化した「大統領選挙後の紛争」があった。多くの死者を出した同紛争では、人々は大きな試練に見舞われ、多数の人が故郷を追われて国内避難民となったが、ケニア山周辺の資源を融通して社会を回生させる様々な実践もあった。ケニア山からの水資源は、ケニア最大の水田地帯に暮らす人びとの生活も支えている。本研究の締めくくりとなる今年度は、水資源開発が国際援助の中心課題として取りざたされる中で、地域住民が分かち合いの術を見出す実践を示し、開発と文化の連関を具体的に検討する事ができた。
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