本年度は、本研究課題の繰り越しによる最終年度になったことから、これまでの研究成果の総まとめとしての各種学会・国際シンポジウムにおける成果発表、ならびに、新たな知見に基づく調査研究および成果の発表が、主たる活動となった。 本研究課題は、現代北インドにおける「不可触民」の仏教改宗運動と、かれらの自己意識ならびに生活実践・儀礼実践について、文化人類学的な調査研究を行ったものである。具体的には、かれら現代北インドの改宗仏教徒たちが、地縁関係においても親族・姻族関係においても多数派であるヒンドゥー教徒と、いかなる関係性を有し、またそれをいかに交渉しているのか、より多角的に把捉し、分析・考察することを目指した。 そこにおいては、とりわけ、改宗前後の時間的・空間的連続性が重視された。この観点は、改宗前後の断絶性を強調する先行研究に対して、また、アイデンティティ・ポリティクスの議論にのみ陥りがちなマイノリティの語り・主張に関して、他者とのつながりを志向する様相という、重要だが看過されがちであった側面を明白に示すものとなった。この考察の成果は、国際ワークショップやシンポジウムにおいて発表され、またその後、学術論文として英文Web雑誌に掲載されるところとなった。 また、繰り越しの主たる理由となった、新たな知見としての仏教および仏教改宗運動の「社会性」の検討であるが、次の通りとなる。すなわち、インドにおける仏教改宗運動の祖であるB. R. アンベードカルの宗教(仏教)認識にみる社会性、および、現代インドの仏教運動における社会性について、多角的に検討を行った。その成果については、「宗教と社会」学会のテーマセッション「社会参加を志向する宗教の比較研究―エンゲイジド・ブッディズム(社会参加仏教)を考える―」において発表を行い、他地域・他宗教の事例との比較検討のもと、相互に考察を深めることとなった。
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