本年度は、前年度に実施した予備調査の結果を踏まえ、以下の各地で本調査を行い、木工ろくろの技術改良のプロセスを考察するための基礎資料を入手した。その際、複数形式のろくろのうち、分布域の明らかとなってきた「鈴木式ろくろ」と「山中式ろくろ」に焦点を定め、普及の系譜を追うことにした。 (1)「鈴木式ろくろ」に関しては、奥会津博物館(福島県南会津郡)、会津漆器産地(会津若松市)、浄法寺歴史民俗資料館(岩手県二戸市)。 (2)「山中式ろくろ」に関しては、金沢市文化財保護課(石川県金沢市)、山中漆器産地(石川県加賀市)、石垣市立八重山博物館(沖縄県石垣市)、沖縄県立図書館(沖縄県那覇市)。 (3)上記以外の木工ろくろに関しては、木工足踏轆轤工房(三重県四日市市)。 具体的には、(1)木工ろくろに関する文献資料の収集、(2)木工ろくろ実物資料の構造を詳細に点検、実測、図面の作成、(3)木工ろくろの使用者(伝承者)、関係者への聞き取りを行った。 その成果は、以下のようにまとめられる。 「鈴木式ろくろ」は、明治期に福島県会津地方で発明、数次の改良が加えられ今日に至っている。そのプロトタイプとでも言うべき前世代機の存在を、浄法寺歴史民俗資料館において確認することができた。 「山中式ろくろ」は、金沢市の管理する国指定重要有形民俗文化財「北陸地方の木地製作用具」の中に複数含まれており、焼印から大阪高津のろくろ製造業者によるものと、そうではなく、形式は類似しているがノーブランドのものが存在することが明らかとなった。また、「山中式ろくろ」は、関係者への聞き取りから沖縄、石垣方面にも普及したようである。このことを手掛かりに、現地調査を行った結果、ノーブランドであるがきわめて類似した実物資料を実見することができた。さらに、普及の背景には、工芸指導所などの県レベルでの教育機関の技術伝承があったことも浮上してきた。今後は、「鈴木式」や「山中式」の概念の精査が必要である。
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