前年度開始の第2期(~23年度前半)には、action de in rem versoの制度化を媒介した仏独私法学の接触とそこで生じた訴権理解の変容を、厳密なテクスト読解を基に跡づけた。成果の全ては公表されていないが、学会報告要旨に反映が見られる。ツァハリエは、資産概念に省察を加えることでドイツ普通法における所有権に基づく返還訴権との類比を洗練させ、「価値返還のための対物訴権」としてaction de in rem versoを提示した。これを「対人訴権」とし、17世紀に袂を分かった原因概念と再接合させたのがオーブリー&ローである。第3期(23年度後半)には、仏独双方の研究者との意見交換から、両法の構想の差異は、不当利得制度の他方の原像であり最もプリミティヴに返還を実現する訴権、すなわちコンディクチオの処遇に依存することが改めて認識された。これを端的に母型としたドイツ法と異なり、フランス法は準契約の範疇と原因概念に翻弄される。しかしオーブリー&ローは、上記のドイツの一学説の批判・再構成により、action de in rem versoの名称はそのままに、コンディクチオの再導入・一般化を実現してしまう。この逆説的展望の説得性は裁判例の検討精度にかかる。作業は難航したものの事案との共鳴が見出された。一方には、現物志向からの脱却がかえって物的追求の希求を表面化させるという事情(cf.先取特権)があり、他方には、法的には指示されない事実上の利得の帰属先への請求の必要性(cf.準事務管理)が感じられた。方向を異にする二要素がツァハリエに言うaction de in rem versoの下では同居し得たものの、20世紀初頭に既存の実定法規範との軋轢から両要素ともに否定される。これを理論的に支えたのが上記「コンディクチオ化」の学説であった。なお、返還法の他方の柱である原状回復について、拙稿「フランス古法時代の一法格言に関する覚書」(提出済、長谷川晃編『異法融合とその諸相』(仮題))を上梓した。
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