本研究は、帝政期ドイツ(1890~1918年)の夫婦財産法を法制・法理論・法実務・社会的現実などの多様な側面から実証的に解明する計画であった。この時期に成立をみたドイツ民法典は、日本の現行民法典の主要な源泉の一つに数えられており、一般には自由主義的財産法と家父長制的家族法の結合として特徴づけられてきた。しかし、現在の研究水準では「自由主義的」財産法の領域に関して、旧ヨーロッパ的普通法・自然法の倫理的基盤にさかのぼる「社会的私法」理念の存続が対置され、一定の修正がなされるに至っている。そこで本研究は「家父長制的」家族法の領域においても同様の修正が必要であるとの立場に立ち、とりわけジェンダー法史の観点を活用しつつ法実務の次元まで遡って分析することで、帝政期ドイツ夫婦財産法ひいてはドイツ民法典家族法全体の再評価を試みるとともに、戦後改革によって法制度面での直接的な連関は失われたにせよ、現代日本家族法制の理解への寄与を目論むものであった。 このような当初の研究計画は、これまでの4年間の研究を通じて概ね達成されたということができる。とりわけ特筆に値する実績としては、研究代表者が自ら編集した論文集『夫婦』に寄稿した論文において、本研究で明らかとなった帝政期ドイツ夫婦財産法を踏まえた上で、現代日本家族法制に対して一定の提言をなすことができた点が挙げられる。ただし、研究計画書に記載した個別研究論文にはまだ未発表のものが残っており、研究成果の社会還元のために早急に刊行せねばならないことは言うまでもない。
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