研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続き,様相論理学や義務論理学などの,現代論理学の研究水準の把握を重要な目標とし,それらに関する外国語文献の収集や読解を進めた。その上で,二階の述語論理の表現力を用いて,特定の者に規範を定める能力を与える権限規範(授権規範)を定式化することができるか否かについて検討を進め,その成果を,2011年8月にドイツのフランクフルト大学で開催された法哲学社会哲学国際連合第25回大会の2つの報告で(一方は権限規範の定式化の試みについて等を英語で,他方はグスタフ・ラートブルフのいう自由を「自己立法の権限」とみなせること等をドイツ語で)紹介した。さらに2012年2月には,北陸先端科学技術大学院大学の教員などから構成される「今後の法情報学の展開を考える会」でも報告を行い,法情報学に携わる多くの研究者から助言をいただいた。その結果,条件法(含意)の扱い方について,および二階の述語論理の不完全性についてなど,避けては通れない難問が多くあることを知ることができ,次年度の研究の方向性を定めることができた。 本研究は,「法とは何か」という問題を扱う法概念論を中心とするものであるが,上記の成果は,この「法」の集合に含まれる権限規範について,まだまだ解明すべき諸問題があることを示すと同時に,カントの実践哲学をはじめ,リベラリズム的思想の中心的な考え方である個々人の「自律性」(すなわち自己立法の権限)についても,論理学的な検討を加える必要があることを示唆するという意味で,重要なのではないかと思われる。
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