平成24年度は、平成22年7月までの在イギリス海外研究の成果を日本に還元してゆくとともに、手続法を中心とした検討に加え実体法とのかかわりもとりこんだ包括的な研究を進め、成果の公表を行ってきた。 平成24年6月には、イギリス・ケンブリッジ大学から、私の在イギリス研究中から本研究に惜しみない支援と助力を与えて下さったニール・アンドリュース教授を招聘することができた。東京と福岡で同教授を中心に複数のシンポジウムを開催するとともに、来日にあわせて同教授の著書の翻訳『イギリスの民事手続法制』を出版することができた。 私自身の研究成果としては、日・英・米の証券流通市場における民事責任の問題を手続法・実体法を両面から包括的に検討した研究論文を公表することができた。これは、平成23年度に、自ら編者に加わったEuropean Business Law Reviewの特集号の中で公表した、当事者訴訟の英米比較についての英文論文を発展させたものである。近年の日本でも、証券関係訴訟が増加し、最高裁でも重要判例が下されきている。そうした中で、日本の金融証券取引法をめぐる議論でしばしば参照されてきた英米の法制・実務を、実体法・手続法の両面から分析し、かつそれぞれの国の社会的背景や訴訟の実態をも踏まえた視点を提供できたと自負している。 在イギリス研究中から進めてきた英米民事手続法比較という本研究の集大成は、書籍の形での公表を目指して進行しつつある。ケンブリッジ大学に提出した学位論文に大幅な加筆を加え、また国際私法や国際仲裁などの隣接分野の知見も取り込んだ研究内容となっている。残念ながら、本助成事業期間中に書籍として公表したいという目標を実現することはできなかったが、近年中に世に問う予定である。
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