平成21年度は、研究第1年目として、タイにおける預入売買、特に不動産預入売買に関する判例、起草資料を収集して、タイにおける議論状況、判例の傾向、当該制度の性格を把握することに努めた。日本には資料がほとんど存在しないため、タイの大学図書館、国立図書館、裁判所等において、預入売買に関係する資料を中心に、書籍、論文、判例を収集し、帰国後それら資料を分析した。また、資料収集と並行して、実務における預入売買に関する意識を調査するために、裁判官、土地局職員などにインタビューを行った。 タイにおいては、自己の土地を預入売買に付する者のくは法的知識に乏しく、買主に言われるまま契約を締結し、最終的には土地を取り上げられることがかった。この結果を理論的に支えているのは裁判所の判例であるが、裁判所は、契約自由の原則が認められ、契約当事者が合意して契約している以上、その結果は受け入れるべきであり、また、預入売買は売買契約の一種と民商法典で定められそいる以上、担保権設定契約と見ることはできず、清算義務を課すという日本のような判断をすることはできないと言うことが、裁判官へのインタビューから明らかになった。 しかし、土地預入売買の登記を担当する内務省の土地局は、土地喪失につながる預入売買の問題を憂慮しており、土地局として預入売買が有する危険性を周知させるために積極的な広報活動を行い、問題の削減につとめていることが判明した。 今年度は、日本においてはほとんど知られていないタイの預入売買制度の内容とその問題点を把握するとともに、さらなる貧困を招来する預入売買による土地め取り上げ問題に関して、関係する裁判所と土地局の間における意識の差、考え方の違いが存在することを明らかにしたことを、成果としてあげることができる。
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