平成22年度は、研究第2年目として、タイにおける質権に関する判例、起草資料を収集して、タイにおける議論状況、判例の傾向、当該制度の性格を把握することに努めた。日本には資料がほとんど存在しないため、タイの大学図書館、国立図書館、裁判所等において、質権に関係する資料を中心に、書籍、論文、判例を収集し、帰国後それら資料を分析した。また、資料収集と並行して、実務における質権に関する意識を調査するために、裁判官、弁護士などにインタビューを行った。 タイにおいても、質権の設定のためには、質物の占有移転を行わなければならず、事業を運営する上で必要な動産を目的物とすることはできない。そのため、権利質が利用されるが権利質においても問題が存在する。民商法典には、権利質について証券的債権質(750条から753条)と社債・株式質(754条)について規定されている。しかし、指名債権質に関する規定が存在せず、設定方法や対抗要件について判明しない。 預金債権を目的とする質権の設定について、最高裁の判断は分かれているが、近年は否定する判決がでている。預金債権を対象とする質権設定は困難な状況であるが、実務においては、裁判例が分かれているため、念のために預金債権を目的とする質権を設定することが、弁護士へのインタビューにより、明らかになった。 今年度は、日本においてはほとんど知られていないタイの質権の内容とその問題点を把握するとともに、本来事業をする上で重要な預金債権を目的とする質権についても問題が有することを明らかにしたことを、成果としてあげることができる。
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