本年度は、昨年度に引き続き、《財政規律の時間的柔構造》を実現しうる法制度設計論を提示するための理論的作業を行った。本研究の根幹的着想は《解釈という営為に開かれているがゆえに《未知の状況への開放性》と《一定範囲内への枠付け》を両立させうるという法概念の特性に着目し、これを機能主義的観点から法制度設計論へと融合する》という方針である。この構想の具体化に向けて、(1)アメリカ行政法を素材に、解釈論と制度論の架橋を試みた論文2本(後掲「多元的システムにおける行政法学-アメリカ法の観点から」及び「「より良き立法」の制度論的基礎・序説-アメリカ法における「立法」の位置づけを手がかりに」)を公刊した。また、(2)新たに認識論的ゲーム理論を基礎とした制度理論(そのための準備作業として、青木昌彦著「相互作用と個人予想を媒介する認知的メディアとしての制度」の翻訳を行い、公刊した)からの示唆を取り入れることで、財政「制度」の概念的拡張を行い、これによって財政法の理論枠組みの再構築と具体的な問題分析への応用を試みた実験的な論文2本(後掲「政府調達における財政法的規律の意義-「経済性の原則」の再定位-」及び「財政制度をめぐる法律学と経済学の交錯-法律学の立場から-」)を公刊した。さらに、これらの作業を進める中で、(3)経済学をはじめとする隣接諸学と、言語や概念を基礎に思考を進める法学との関係性および協働のあり方について、自らの考え方を整理しておく必要を認識したため、これに関連する基礎理論的論考2本(後掲「公法における「法と経済学」の可能性?-租税法学の経験を手がかりに」、「「法政策学」の再定位・試論-「新世代法政策学」の基礎理論の探求」を公刊した。これらを通じて、本研究の総論的作業に一定の区切りがつけられ、次年度における、諸外国の財政制度を含めた具体的制度分析の展開への足場ができたものと考える。
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