本年度は、今年度交付申請書に記載したように、予定を変更し、親密圏という私的領域における人権についてフランスを題材として検討することを試みた。この観点からの検討は、一部、ジェンダー法学会において発表を行う予定ができた。親密圏において自己決定が、その本領を発揮しうる条件を検討した。24年度に成果が学会誌に公表される。 また、私的領域における人権に関連して『性的マイノリティ判例解説』を刊行することができた。研究代表者は、編著者の1人として、この中にフランス判例の評釈を多数掲載した。 最終的に、研究をまとめるにあたっては、日本に対する示唆を検討することが必要であったが、こちらについては十分に展開することが出来なかった。しかし、日本への示唆として以下のことを指摘した。 フランスにおいては、特に労働分野において、私人間への憲法上の規定の適用は特に障害がなく適用されるように考えられている。他方で、基本権のよりどころとして憲法を持ち上げる発想も強くない。確かに、労働法典の一般条項が重要な役割を果たしており、その意味では憲法の人権規範の役割は決定打ではない。しかしながら、思想的に無適用がとられていないこと、ヨーロッパ法も含めて、基本権の法源が多様にあるという背景を考慮に入れる必要がある。そのような事情を考慮に入れた上での憲法が一定の役割を私人間で演じ、必要に応じて援用されることに対して、日本のように理論的障害ないフランスは、日本における理論選択にとって、形式的な模倣をするのに適さないという意味で示唆的である。
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