フランスにおける私人間人権保障の構造を明らかにするという本研究にとって、中心的な課題となる論点、すなわち通常裁判所による憲法の人権規定の適用の例を判例研究を通じてある程度明らかにすることができた。 フランスでは憲法裁判所ではない、司法系統の通常裁判所が憲法ブロックの人権規定を適用していることがあり、そのことはフランスが日本でいうところの「無適用」ではないことを示している。そうした傾向は、労働分野での平等原則の適用などに特に多くみられた。確かに、平等原則以外、特に精神的自由権の適用が私人間紛争において大きな役割を果たしているとまでは言えないが、フランスの裁判所が思想的に無適用の立場には立っていないことが分かった。 さらに「私人間に憲法上の人権が適用されるか」という日本風の問題意識は、司法制度の相違のために、フランスには当てはまらないこと、憲法の全法秩序化を裏付けるようなフランスにおける最近の状況があること(私的領域へのパリテの拡大、環境憲章の扱い)についても言及した。
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