研究概要 |
本研の目的は,課税のタイミングに関する基礎理論の再構築をおこない,課税繰延等の租税法規の立法論的検討を行うことである。本研究の特色は,従来区別されてこなかった国庫と納税者の視点を峻別する点にある。そこで平成21年度の研究成果につき,(1)国庫の視点と(2)納税者の視点に分けて報告する。(1)国庫の視点については,規範的分析の前提となる記述的分析を中心に進め,課税繰延防止策が発達しているアメリカの租税制度を分析した。この点につき,本研究課題申請後・採択決定前の間に神山弘行「対外間接投資と課税繰延防止規定」〔フィナンシャル・レビュー94号〕を執筆し,本年度公表した。次いで,アメリカ,イギリス,オーストラリア,ニュージーランドにおける発生主義予算・決算制度と政府の実際の「割引率」につき調査・分析を進めたところ,各国の財政過程や政策判断における「時間枠組み」や「割引率」の多くは,理論的根拠に乏しいことが判明した。この成果の一部を,神山弘行「財政赤字への対応-財政規律と時間枠組み」〔ジュリスト1397号〕として公表している。(2)納税者の視点については,新古典派経済学に加えて,個人の限定合理性に着目する「行動経済学」の観点からも,納税者行動と課税のタイミングに関する調査研究を行った。従来の基礎理論は個人の合理性を前提としており,個人が限定合理的である場合,納税者の視点からも基礎理論の修正を要するとの知見が得られた。この成果の一部につき2010年1月26日開催の北海道大学グローバルCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」法の経済分析研究会において「租税法と行動経済学-租税政策学の観点から」という形で報告の機会を得たとともに,神山弘行「租税法と『法の経済分析』」を執筆中であり金子宏編『租税法の発展』(有斐閣)において公表予定である。
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