研究概要 |
本研究の目的は,1.現実に政府が使用している割引率を調査するとともに,2.理論面から国庫にとって適切な割引率を検討することにより,3.割引率の観点から納税者と国庫の視点を峻別した上で,課税のタイミングに関する基礎理論の再構築を行い,4.金融所得課税の望ましい制度を検討することである。研究計画最終年度である平成22年度は,昨年度の研究成果を基に,政府(国庫)と納税者の視点を峻別することで,「課税繰延=投資所得非課税」,「費用の即時全額償却=投資所得費課税」の等値性命題について,国庫の視点から修正を加えた。これと並行して,行動経済学の知見を援用しつつ,「納税者の視点」から租税法理論の再検討を行った。その上で,これらの検討から得られた割引率に関する知見を活かし,課税のタイミングの観点から,望ましい金融所得課税制度を立法論的視座から検討した。これらの検討を進めるに際して,米国ハーバード・ロー・スクール等で聞取調査を行うとともに,一連の研究成果に関する意見交換を行った。上記研究の具体的な成果物として,国庫の視点については(1)「財政赤字への対応~財政規律と時間軸(複数年度予算・発生主義予算)~」ジュリスト1397号12-20頁(2010年)および,(2)「財政法におけるリスクと時間-Contingent Liabilityとしての公的債務保証」フィナンシャル・レビュー103号25-47頁(2011年)を発表した。また,納税者の視点からの考察として,(3)「租税法と『法の経済分析』~行動経済学による新たな理解の可能性~」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣2010年)315-336頁を発表した。また,これらの知見から第39回租税法学会・研究総会において(4)「アメリカ所得税制の最近の動向と課題」と題する研究報告をおこなった。さらに,本研究課題の総合的な研究成果として,法学協会雑誌への連載を予定している。
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