本年度は、研究計画2年目ということで、前半は、前年行った抽象的危険概念の法実証化をさらに深めることを目的とした。具体的には、抽象的危険概念と異質の概念でありながらも、しばしば混同して議論されることの多かった「危険の疑い」「リスク」「傾性的危険」といった概念の法実証化に取り組んだ。この法実証化のために、さらにドイツの連邦イミシオン防止法などを素材にして、「確率論」「蓋然性概念」「実践理性」「物の傾性」などといった知見や「抽象/具体」「一般/個別」といった概念の法理論的意味の解明にも取り組んだ。これで、(行政)立法による抽象的危険の防御の前提となる「危険の種類」について一通り検討を終えたこととなる(なおこの検討の過程で、危険の存否が不明な場合に生じうる証明責任の問題について、一部、拙稿「取消訴訟における証明責任-訴訟の審理過程から」(法学教室360号)21頁以下で扱った)。本年度の後半は、行政立法と議会法律の異同について、法規の性質・立法制定権者の組織体・立法手続・立法裁量の広狭などの観点から明らかにする作業を行った。両者の異同については、これまで特に法規の性質に着目することが多かったが、行政組織内での立法制定過程を分析することで、議会・行政機関それぞれの立法作用の特徴がより明確になった。これらの検討結果を踏まえ、研究計画最終年度となる翌年、抽象的危険に対する立法的対応について論じることとなる。
|