2009年度は、研究課題である「中国における政治的権利・自由およびその保障のための制度的メカニズム」についての資料・データの収集、および整理・解読を主として行った。 2009年8月に中国吉林省長春市を、同年9月に中国北京直轄市をそれぞれ訪問した。それら訪中の中で、大学図書館等において資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、案例、電磁的記録等)を収集し、現地の憲法・行政法研究者にインタビューを実施した。また、9月の北京訪問においては、中国社会科学院法学研究所と早稲田大学比較法研究所による「法治と紛争解決国際シンポジウム」に参加し、行政不服審査制度や陳情制度等の比較研究について討論に参加した。それらを通じてみえてきたことは、中国において、政治的権利に関する考え方、およびその権利救済のための制度構想について、憲法・行政法学者と政府当局、憲法・行政法学者と一般大衆との間に認識のズレがあることである。中国の憲法・行政法学者の政治的権利観、および政治的権利救済のための制度構想は、学術レベルにおいては日本人研究者と十分に意見交換可能なものであるのに、どうして、そうした観念および制度構想が政府当局から受け入れられないのか、どうして、一般大衆の間には司法に対する不信・絶望感が蔓延しているのか、この点について、今後も、引き続き多角的に研究を進めていく必要がある。 拙論「言論の自由は最重要の人権である-杜鋼建の人権観と中国の立憲主義-」(角田猛之編『中国の人権と市場経済をめぐる諸問題』(関西大学出版部、2010年1月))では、リベラルな憲法学者の一人である杜鋼建の所説に注目し、彼の言論の自由観およびその保障のための制度構想を主要な手がかりにして、それと中国政府・共産党の言論の自由観および現行の人権保障のメカニズムを重ねあわせることで、中国の立憲主義の現況を素描した。
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