2010年度は、劉暁波氏へのノーベル平和賞授賞、中国におけるジャスミン革命の呼びかけ等、中国の言論の自由・民主化が国際社会に大きくクローズアップされた一年であった。その間の中国内外の政治・社会状況の把握・分析に努めたことはもちろんであるが、そうした時期であるからこそ、冷静な学術的研究を心がけた。 2010年の8月から9月にかけてシンガポールを、10月に台湾をそれぞれ訪問し、大学図書館等において資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、案例、電磁的記録等)を収集し、現地の憲法・行政法研究者にインタビューを実施した。シンガポールや台湾の政治体制と中国の政治体制との比較研究を通して、中国において、政治的権利・自由の保障のための制度的メカニズムを構築するにあたって、司法権の独立および違憲審査制の確立がきわめて重要な位置を占めること、およびそれらの実現にはなお様々な「障害」が存在することを再確認した。現在、それら外国訪問で得られた知見について、論文を執筆中である。また、今後は、政治的権利・自由の保障のための制度的メカニズム構築の「障害」についてさらに検討していく必要がある。具体的には、「信訪」と呼ばれる中国特有の訴訟外紛争解決の実態を分析し、それと政治的権利・自由の保障との関連について検討していく。 2010年11月には、石塚迅・中村元哉・山本真編著『憲政と近現代中国-国家、社会、個人-』(現代人文社)を公刊した。同書は、本研究の中間成果であるだけでなく、本研究の遂行にあたって重視した歴史学者・政治学者との学際的共同研究の成果でもある。同書には、石塚迅「現代中国の立憲主義と民主主義-人民代表大会の権限強化か違憲審査制の導入か-」(158~177頁)、周永坤著/石塚迅訳「紆余曲折の中国憲政研究60年-『人民日報』掲載論文を手がかりに-」(133~158頁)が収録されている。
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