平成23年度も、国内における文献調査を通じて、イギリス=オーストラリアの行政争訟制度の研究を行った。具体的には、イギリス=オーストラリアの司法審査における事実問題の取扱いに関する研究を継続したのに加えて、新たに、イギリス=オーストラリアの管轄権排除条項(ouster clause ; privative clause)に関する研究、および、イギリス=オーストラリアの行政法学における「規制的(regulatory)」アプローチに関する研究を行った。本年度は、その結果として、とりわけ、「オーストラリア行政訴訟における法律問題と事実問題--行政判断の構造に関する予備的考察--」、「行政法への『規制的』アプローチについて」--行政争訟制度を分析するもう1つの視点」という2つの論攷を発表することができた。前者の論攷は、オーストラリアの行政訴訟における法律問題と事実問題の区別に関する裁判例(特に、法律の文言を標準として両者を区別する裁判例)、事実問題に対するコモン・ロー上および制定法上の例外的な審査の根拠(grounds of review)に関する裁判例を紹介・分析したものであり、さらには、これらの裁判例の前提となっている行政判断の構造を解明することを目指したものである。また、後者の論攷は、主として、オーストラリア行政法の最新のテキストを手掛かりとして、イギリス=オーストラリアの行政法学において「規制(regulation)」への関心が大きくなっている背景、「規制的」アプローチを採る意義・実益、伝統的な「法的(legal)」アプローチと新たな「規制的」アプローチがもたらす行政争訟制度上の具体的な相違点、「規制的」アプローチが成立するための前提を明らかにしたものである。
|